仕えるものと導くもの、人と人の結びつき

  • THE MASTER

 自分が最も好きなハリウッド監督、ポール・トーマス・アンダーソン監督(略してPTA)の最新作を見に行く(ちなみにバイオハザードの監督と間違えやすいがあっちはポール・アンダーソン監督)
 PTAの作品のモチーフとしてしばしば出てくるのが宗教。今作はサイエントロジーをモチーフにしており、制作当初はその扱う題材ゆえに資金繰りに問題がでていた中発表された今作品。あらすじは、舞台は第2次大戦後のアメリカ。帰還兵のフレディはカメラマンとして新たな生活を始めるが、戦地で患ったアルコール依存症のため、行く先々の職場で問題を起こしていく。行く当てもなく放浪の旅をする中、密航した船で新興宗教団体"ザ・コーズ"の指導者であるマスターこと、ランカスター・トッドと出会う。そしてこの出会いによりフレディの人生が180度変わっていくのだが、マスターの影には妻が潜んでおり、そのパワーバランスが崩れ始め・・・という流れ。
 別にハリウッド映画的なドンパチもなければ、ロマンスも派手なVFXもない。そこに描かれるのはフレディとマスターの縁、絆であり、一方的にフレディがマスターを慕うという構造だけでなく、マスターも普通に考えれば厄介者でしかないフレディという存在にどこかひかれていってしまう、マスターと使徒という間柄ながら、上下関係を超えた人間関係を見せる映画だったのではないだろうか?
 そして何より役者の演技がすばらしい。フレディを演じたホアキン・フェニックス、マスターを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンともに役になりきるというレベルを超えてしまっているかのように実在する人物かのごとく映画の中に存在してくる。この2人の演技を見るだけでももう、そんじゃそこらの映画では到底太刀打ちできないレベルになってしまっていた。特にアルコール依存症のフレディを演じたホアキン・フェニックスの駄目男を通り越したうつろな目と表情、佇まいまでも演じきっていた。もう、リバーフェニックスの弟とは言わせない、ハリウッドの超1級の役者である。
 技術的な面では、本作は近年使われなくなった65mmフィルムを使用しており、衣装、背景、そのすべてを余すところなく表現しつくしていた。
 けっして万人受けしないし、VFXがないのでVFX系の人から言わせればこれは映画じゃない、ということになるが、人間ドラマを余すとこなくフィルムに焼き付けた重厚な映画である、と言いたい。ただ、人には全く勧めないけどね。