復讐に何の意味がない、の向こう側

  • その夜の侍

 映画1000円ディを利用して、新宿で"その夜の侍"を鑑賞。
 元々は舞台劇を映画化、監督も劇団THE SHAMPOO HATの劇作家兼役者の赤堀雅秋。ひき逃げで妻を殺された鉄工所社長中村と5年の刑期を終えて出所したひき逃げ犯木島を中心に、それにかかわる人たちを描いた今作。主演はここ最近見に行った邦画でことごとく主演を演じている堺雅人と今年見に行く予定の"ミロクローゼ"でも主演を張る山田孝之と現在の日本映画界で引っ張りだこの2人。ハリウッドドンパチもののように盛り上がる映画ではなく、最後の結末がすっきりするわけでもない、淡々とした映画だが、ぐっと引き込まれるのはストーリーテリング、ライティング、音楽がマッチし、演者の演技がすばらしかったったからだろう。
 主役を演じた2人がとくにすごく、堺雅人が演じる中村は焦燥感を絵にしたかのように、妻が死んだ男を演じているし、山田孝之の演じる木島は暴力の中にカリスマ性をもち、あぁ、DVの図式というのはこういったものなんじゃないかと思わせる。
 何気ない会話なのに、不安の中に笑いがあるのか、劇場で笑いが起こるシーンがいくつもあった。これを生み出したのは練られた台詞とストーリーテリング、役者の演技の賜物なのだろう。

 よく、"復讐に意味なんてない"といって主人公が許す物語(特に漫画なんか)が結構ある。そんなとき、"なんでそんなに簡単に許してしまうの?"という人が結構いるけど、じゃあ、そこで犯人ぶっ殺すという話にはならないし、基本、そう言う意見を言っても、解決策は提示されたためしがない。ただ、この映画はその先を見た気がした。"復讐に意味はない"とは言うけど、じゃあ相手を簡単に殺せるほど自分は主人公補正もない(そして相手は超凶暴)でも、お前を殺して俺も死ぬ、それだけを5年考えて生きてきた。どうするのか?どう復讐するのか?そこは映画を見てもらって判断してほしい。ぜひ、見た人と話がしたい作品だった。

 これが初監督作品となる赤堀雅秋。映画のカット割りや組み立ては舞台出身であることがわかる映像だった。次回作も楽しみな監督。


http://sonoyorunosamurai.com/